東京高等裁判所 昭和37年(ネ)58号 判決
以上の事実によれば、後藤寅一は控訴人に対し何等の代理権を付与したことなく代理権を与えた旨を他に表示したこともないのに、控訴人は寅一の代理人として遅沢に対し寅一所有の本件土地を担保として他から金融を受けることを依頼したことが明らかであるから、控訴人の右の行為は寅一に対し何の効力も生じなかつたものとしなければならない。ところで、控訴人の本訴請求は、寅一が昭和三五年三月一九日死亡し控訴人がその余の相続人全員の相続放棄の結果単独で寅一の相続人となつた事実(この事実は当事者間に争いがない。)に基づき、寅一の承継人として、被控訴人らに対し本件土地の所有権取得登記の抹消登記手続を求めるものである。しかし、一般に無権代理人が本人の相続人となつて本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた以上、本人自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であつて、無権代理人がたまたま本人の相続人となつたことを理由として自らした行為の無効を主張するようなことは到底許されないといわねばならない。代理人が本人の共同相続人の一人であつて他の相続人の相続放棄により単独で本人の相続人となつた場合においても右と結論を異にすべき理由はない。したがつて、本件の場合、控訴人は、遅沢に対する前記金融依頼が寅一の授権に基づかないことを主張することは許されず、右の行為について寅一を代理する権限を有していたものと同視せらるべく、遅沢は寅一を代理する権限を付与されたものと解すべきである。
(大場 影山 秦)